菜を断てば指に黄砂の淡き粒 徳永 木葉
『季のことば』
黄砂は春に中国北西部やモンゴルで強風に巻き上げられた砂塵をいう。偏西風に乗って日本にも飛来する。春到来を告げる気象現象である。水牛歳時記によれば、季語としては霾(つちふる)が伝統的で、よなぐもり、霾風(ばいふう)、霾天なども同類の季語とされる。黄砂の多い日は日光が遮られてどんよりと曇り、大陸に近い地域は洗濯物が汚れたり、草木の葉や車の屋根に細かい砂が積もったりする。
掲句は包丁で野菜を切っている時に、指先で黄砂を捉えた場面を詠む。砂や泥が入り込む野菜と言えば葉物になるが、「断つ」という動詞をわざわざ使っているところから、茎が固い白菜やチンゲン菜を力を入れて切ったのであろう。これらの野菜は切った後に水洗して、根元の砂をきれいに落とさないと、料理が台無しになる。
作者は茎を断ち切った時に、いつもと違う細かい黄色い粒が指先に付いているのに気づき、「そうか黄砂か」と思い至ったのであろう。緊急事態宣言が解除されたと思えば、またぞろ新規感染者の増加で大阪、兵庫、宮城には「まん延防止等重点措置」という、効果が期待できそうも無い自粛要請措置が発出される始末。とにかく外出もままならず、コロナ籠りの日々が続く。家庭的な作者は台所に立つ機会が増えたと推察される。台所仕事の一コマから、「いまどき」の暮らしが垣間見えて来る。
(迷 21.04.02.)
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