記さねば句は消えてゆく春霞   今泉 而云

記さねば句は消えてゆく春霞   今泉 而云

『この一句』

 句会には当日その場でお題が出る席題方式と、兼題を事前に頂いて日々句を案じてから投句するというやり方があろう。時間の長短はあれ、いずれにしても呻吟しながら句作に没入しなければならないのに変わりない。後者は締め切りまで長い分、床についても兼題が頭から離れない時がある。夢うつつの中で句をひねり「おお、いいのが出来た」と安心して熟睡に入る。さて翌朝、あの〝秀句〟を思い出そうとしてもいっかな思い出せない。
 この句はそのような状況を詠んで間然とする所がない。句会の私たち、平均年齢七〇を超える高齢者である。「しまった、書き留めておくのだった」と後悔するのは筆者もご同様。記憶をたどれど春霞の彼方のように儚く覚束ない。「春霞」が絶妙の季語だと、選句者は異口同音に述べる。みんな自分の経験を照らし他人事ではない思いを持ったに違いない。主宰の一人である作者がそうなら、自分も当然という気持ちだろう。作者の場合はさておき、思い出せない句は大体駄句と相場が決まっているのだが、大魚を逸した気分がなかなか抜けきれない。
(葉 21.03.22.)

この記事へのコメント