朝まだき受け月春に溶け込みぬ 髙橋ヺブラダ

朝まだき受け月春に溶け込みぬ 髙橋ヺブラダ

『おかめはちもく』

 「朝まだき」は夜の明けきらない早朝を言う。「まだき」は「未だき」で、「そうならないうち」という意味だ。「愛しいお方が朝まだきに帰って行かれる・・」というように、「早くも」「もう・・」といった意味合いで使われる。源氏物語や伊勢物語などにも出て来るし、古歌にも盛んに用いられている優雅な言葉だ。この句も、そうしたロマンチックな情趣をたたえたなかなかの句である。
 「受け月」というのは曖昧な言葉で、上弦でも下弦でも、あるいは三日月でも、時間を問わなければ受け月になることはしょっちゅうである。ただここでは「朝まだきの受け月」ということだから、昔からの言葉で言えば「有明の月」ということになろう。満月が過ぎると月の出がだんだん遅くなり、それと共に右側が欠け始め、下弦の月になる。それが夜も更けてから現れ、夜明けに西の空に盃のように浮かんで、やがて日の出と共に見えなくなる。春であれば、まさにこの句のように「春に溶け込む」感じがするであろう。「春はあけぼのやうやう白くなりゆく山際すこし明かりて・・」(「枕草子」冒頭)の頃合いである。明日八日あたりから十一日頃まで明け方五時過ぎには、この句のような受け月が見られるかも知れない。
 とても感じの良い句だが、上五に「朝まだき」と置いたためにやや平板になっているのではなかろうか。「受け月の春に溶け込む朝まだき」とした方が、春の夜明けの情趣が深まるような気がするのだが・・。語順によって句の印象はがらりと変わる。
(水 21.3.7.)

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