ダムの名は江戸より五十里辛夷咲く 杉山三薬

ダムの名は江戸より五十里辛夷咲く 杉山三薬

『この一句』

 地名や場所を詠み入れた句は、そこに行ったことがない、馴染みがないとなれば受け手の心に届かないのだろう。この句の中七(八音ではあるが)の「江戸より五十里」に覚えのある人にとっては、それだけで感懐を持つに違いない。「五十里」は地名では「いかり」と読む。筆者は行ったことはないが、うろ覚えながら読みだけは思い出した。調べて見ると、由来は会津西街道にあった会津藩関所および宿場が江戸からちょうど五十里だったので地名になったという。そこに造ったダムだから五十里ダム。
 作者は昔から行動派である。しかも単独行が好きのようでもある。かつての作者句に「右木曽路左伊那谷夏木立」がある。これらの地名は誰もが知っており、すぐにイメージが湧く。句会で高点を得た。掲句の「江戸より五十里」がどこを指すのか、選句者たちはピンと来なかったのではないかと思う。偉そうに言う筆者だってはじめは分からなかったのだから褒められないが。本来やらねばならない句の評価をしたい。鬼怒川上流にある五十里湖は、とうぜん山中にあり中々に由緒あるダムのようだ。その湖周りに辛夷の花が咲き興を添えた。地名を借りてはるばる来たものだと作者は言っている。
(葉 21.03.04.)

この記事へのコメント

  • 酒呑洞

    面白い句ですねえ。「辛夷咲く」には最もふさわしい場所の一つでしょう。これはやはり「ごじゅうり」などと読まず、「ダムの名は江戸よりいかり」と読み下すべきでしょう。
    高尾の森林科学園の辺には鎌倉より二十里ということで「廿里(とどり)」という地名がありましたね。そんなことも思い出しました。
    2021年03月04日 17:00