皆中を外す矢羽根に東風強し 池内 的中
『この一句』
「皆中」は弓道の用語。皆(みな)中(あた)るという意味で「かいちゅう」と読む。矢を射ることを「射(しゃ)」といい、例えば、競技会などで八本放って的にすべて当たれば「八射皆中」などと使う。逆に全部外すことを「残念」と言う。などと偉そうに解説している筆者は実は弓道を知らない。弓道をやっている娘から聞き齧った、単なる受け売りである。
弓道歴が長い作者は、仕事の合間を縫って近所の道場で腕を磨いているらしい。「的中」という俳号は弓道からいただいた。聞けば、合気道もやっているという。俳句も作るし、革細工の腕前は趣味の域を超えているとか。まさに文武両道である。そんな作者でも「皆中」するのは難しいという。まれに「皆中」できた時はさぞかし嬉しいだろうし、その日の酒の味は格別だろう。ところが、もう少しで快挙達成だったのを春の風、つまり東風に邪魔されたのだ。「風さえなければ皆中したのに」と残念がっている的中さんが浮かぶ。
この句を採った明古さんは『東風の強さが感じられますが、「に」を改めるほうがより広がりのある句になるのでは』と言う。確かに、「矢羽根に」を「矢羽根や」と切ったほうが句が締まるが、この句の眼目は何といっても専門用語「皆中」にある。
(双 21.02.26.)
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