結婚のメリット問う子猫の恋 須藤 光迷
『季のことば』
「猫の恋」は発情期を迎えた早春の猫の行動をさす季語で、恋猫、うかれ猫、春の猫、猫の妻、孕み猫など、いずれも春の猫の狂態を表している。例句を見ると「恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく」(加藤楸邨)など、相手を求めて昼夜さまよい歩く生態を詠んだものが多い。
これに対し、掲句は「結婚のメリット問う子」という一種の謎かけを提示し、猫の恋を配する。理性的に損得を計り、結婚に意味づけを求める人間と、本能のまま狂おしく異性を求める猫を対比させることによって、結婚を取り巻く現代の状況を浮き彫りにする。
少子化・晩婚化の進展で日本の婚姻率はピーク時の半分以下に落ち込んでいる。厚労省の統計によれば、生涯未婚率は女性で14.0%、男性は23.3%に達する。価値観の多様化が「結婚しない」という生き方を選ばせ、格差社会の拡大が「結婚できない」とう現実を生んでいるように思える。
作者の家庭であろうか、適齢期の子供に「誰かいい人いないの?」と聞いたところ、逆に「結婚して何かいいことがあった?」と聞き返している場面が想像される。作者(あるいは奥さん)が、この問いにどう答えたか、気になってくる。
(迷 21.02.23.)
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