たっぷりと寒九の水を小豆煮る  大下 明古

たっぷりと寒九の水を小豆煮る  大下 明古

『季のことば』

 今年の1月5日は小寒。この日から寒の入り。1月20日が大寒で、2月3日が寒明け、つまり立春だ。この寒中が1年で最も寒い時期とされる。実際、体感的にも1月の後半から2月上旬の寒さが一番堪える。寒の入りから4日目を「寒四郎」、9日目を「寒九」という。この寒中に汲んだ水は身体に良いといわれ重宝されている。
 「小豆」は秋の季語だが、小正月(1月15日)に小豆の入った粥を食べて邪気を払い健康を願う風習があり「小豆粥」は新年の季語となっている。また、関西では鏡開きを1月15日(もしくは20日)に行い、割った餅を汁粉などで食す。そんなこんなで「寒九」のころに小豆を煮るのは、俳句を嗜む者として至極まっとうな行為である。
 作者は、関東在住者なので鏡開きは11日に済ませているはず。となると、小豆粥の準備のため、ことことと小豆を煮ているのかもしれない。小豆を煮るには水をたっぷり使う。ふと指折り数えてみると、今日は「寒九」ではないか。水道水ではあるが、まさしく「寒九の水」。いい句が浮かぶときは、こんな時に違いない。切れ字「を」は、「ことこと煮ている」時間を表している。
(双 21.02.07.)

この記事へのコメント

  • 水馬

    私も句会で採らせていただきましたが、やはり中七と下五の季語の“小豆煮る”の間の「切れ」、しかも“を”で切れるところが良い感じなのだろうと思います。余裕のある間というか広がりを感じます。
    2021年02月08日 07:29