それとなく明るき妻や小正月   高石 昌魚

それとなく明るき妻や小正月   高石 昌魚

『この一句』

 「小正月」という季語は、元日からの正月を「大正月」と言うのに対して、十五日頃に
豊作を祈る農家の「予祝行事」を行ってきたことに由来する。農耕文化のなごりである。テレビの俳句番組で人気の夏井いつき先生は、松の内も忙しい女性のために小正月を「女正月」と呼ぶ説を推奨する。
 夏井説の趣旨を酌んで掲載句を読んでみた。小正月を女正月に置き換えると、作者の句意が一層鮮明になる。新年を迎え病弱の妻が明るい表情をみせている。それも「それとなく」である。意図せずに表れる明るい表情は、自然な気持ちの発露であろう。老々介護の作者には、妻の元気な素のままの表情は何よりである。掲句からは、夫妻の思いやりに満ちた細やかな息遣いが聞こえるようだ。
 女正月の季語は女性へのいたわりを象徴する。句会最長老の気持ちを推しはかるのは、恐れ多いことながら、作者の胸の内に添うものと思う。年明けて昌魚先生から「寒中見舞い」のはがきを頂いた。高石家一族にとって令和二年は「大変多難な年」であり、新年挨拶を欠礼した旨が記されていた。
(て 21.02.03.)

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