天神の裏路地梅のはや三分   玉田 春陽子

天神の裏路地梅のはや三分   玉田 春陽子

『この一句』

 天神とは菅原道真を祀った天満宮のこと。道真は左遷された太宰府で恨みを抱いて没し、怨霊となって祟りをもたらして恐れられた。その魂を鎮めるため所縁の地に天満宮が設けられたのが始まりとされる。全国に1万2千社あり、今は学問の神様として崇敬を集めている。
最も創建の古い山口・防府(904年)と墓所のある太宰府(919年)、朝廷のある京都・北野(947年)が日本三大天満宮とされ、いずれも梅の名所として名高い。飛梅の故事で知られるように梅を愛した道真にちなみ、どこの天満宮にも梅が植えられ、春先は合格祈願の受験生でにぎわう。
掲句は1月初旬の亀戸七福神詣の吟行句である。亀戸天満宮は関東三天神のひとつで、太宰府から分霊を受けて創建され、「東宰府天満宮」とも呼ばれる。作者は境内の梅園ではなく裏路地で見つけた梅を詠む。神社の梅が塀越しに見えたとも考えられるが、ここは路地にある民家の庭の梅と解したい。「天神の裏路地」には、意外な場所で見つけた驚きが感じられる。しかも寒の入り直後なのに花を咲かせている。「はや三分」には、春に先駆けて咲く梅の健気さを愛でる気持ちがにじむ。道真の時代から千百年を経ても、梅に寄せる日本人の心情は変わらないようだ。
(迷 21.01.25.)

この記事へのコメント