初雪や狸堂々畑行く 工藤 静舟
『この一句』
さまざまな理由で生態系が破壊され、獣たちが市街地に現れ、人に危害を加えたり作物に大きな被害を与えたりする事件が多発している。狸による被害も発生しているようだが、あまり大きな話題にされることがない気がする。ホームページで調べてみると、狸は臆病な動物で人の気配がするとすぐに逃げ、作物の被害金額などもあまり大きくないらしい。一方、狸というとすぐに、酒徳利と通い帳を左右の手に持ち、大きな一物をぶら下げた、信楽焼の愛嬌ある置物を思い出す。また、民話や昔話の中では、狐とならんで人を化かす獣とされるが、文福茶釜など笑いを誘う話になることが多い。ようするに、狸はなんとなく憎めない、愛され系キャラクターの獣である。
この句は、そんな狸が初雪の畑を歩いて行く姿を詠んだものである。おそらく一匹で歩いているのでははなく、家族で歩いているのだろう。この句を引き立てているのは、なんといっても「狸堂々」という中七である。この表現が、この句をとても歯切れが良くて、面白い句に仕立てている。畑の端を歩くのではなく、畑のど真ん中をゆったりと歩く親子の姿が見える。
筆者の住居からほど近い荒川の葦原の中に狸の親子が住んでいるらしく、今年の夏、友人の撮った写真がフェイスブックにアップされた。なんとか一見したいと、自転車で数回現場に行ってみたが、残念ながら空振りに終わった。今年こそ、是非お目にかかりたいものだ。
(可 21.01.14.)
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