図らずも獅子に食はれて貰ひ福 金田 青水
『季のことば』
獅子舞は正月や祭りの日によく見かける民族芸能である。新年に家々を訪れて厄を払う門付けの一種として江戸時代から広まったため、新年の季語とされる。獅子が子供らの頭を噛むのは、邪気を食べることで病気や災いから守るためと言う。
掲句は初詣客でにぎわう神社か商店街での光景であろう。遠巻きに見物していた作者の頭を、思いがけず獅子が噛んでくれた。「図らずも」の上五に軽い驚きを込め、「貰ひ福」の下五で意外な幸運を授かった喜びを表現している。正月らしい雰囲気と心の弾みが伝わってくる句である。
年末のテレビ番組で横浜中華街の獅子舞が取り上げられていた。二人組で舞う中国の獅子は、ダイナミックな動きで人気があり、催しに欠かせない。しかしコロナ禍で活動休止を余儀なくされ、客足の激減した中華街も元気をなくしているという。番組はこの苦境を乗り越え、正月に間に合うよう練習を再開した獅子舞チームを描いており、心に残った。
昨年は世界中の人々が、思いもよらぬ新型コロナの災厄に見舞われ、苦しんだ。今年の初詣は年越し詣りの中止や分散参拝で、人出は例年を大幅に下回る。そんな状況だからこそ、年の初めに幸せを祈る気持ちは切実だ。今年こそはみんなが獅子から福を貰い、明るい一年となるよう願わずにはいられない。
(迷 21.01.03.)
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