手をあはす御仏の足冬の蠅   玉田 春陽子

手をあはす御仏の足冬の蠅   玉田 春陽子

『この一句』

 合評会で、「手をあはす」のは誰か、が議論になった。「蠅が前足をこすり合わせるのが、御仏が手を合わせているように見えるという意味でしょうか」(満智)と、比喩の表現ととる解釈があった。また、御仏そのものが手を合わしているのだと、合掌する仏像をイメージする人もいた。仏像の手のかたちは、施無畏印や来迎印など印を結ぶものが多く、合掌している像は案外少ないのだが、勢至菩薩像や童子像など合掌されている像もたしかにある。
 筆者はこの句を読んですぐに奈良の長谷寺の十一面観世音立像を想起し、参拝者である作者が手を合わしていると解釈した。この観音さまは三丈三尺六寸(約十メートル)の巨大な像で、特別拝観の期間には堂内の観音さまのすぐ近くまで入ることが出来る。入ってみると、目の前にあるのはまさに「御仏の足」で、そこで合掌するとまさに足に向かって拝むかたちになる。堂内はとても荘厳な雰囲気で、見上げればはるか遠くに観音さまのお顔がある。
 作者によれば、手を合わせているのはやはり作者ご自身だが、手を合わせている対象は地蔵菩薩だったとのこと。「冬の蠅」のとまっている場所としては、暗い堂内の観音さまの足元よりも、日当たりの良い地蔵さまの足元の方が相応しいだろう。「地蔵の足」ではなく、「御仏の足」と詠んだことがこの句を豊かなものにしている。小さく、か弱い生き物が、「御仏の足」に安心してやすらぐ様子が見える。
(可 20.12.24.)

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