持ってけと呼ばれ手伝ふ大根引き  谷川水馬

持ってけと呼ばれ手伝ふ大根引き  谷川水馬

『この一句』

 定年退職した夫婦や、子育て中の若い夫婦が、田舎に移住して農業を始める。最初は、勝手がわからないから、近所のベテラン農夫に教えてもらいに行く。農夫は忙しいから教えるどころじゃない。「大根欲しけりゃ、勝手に持ってけ」。移住した方はただもらう訳にも行かず、おずおずと大根引きを手伝い始める。テレビ番組によくある、そんなシーンを想像した。
 ところで、この句は動詞の多い句である。「持ってけ」は「持って」と「行け」の複合動詞。「呼ばれ」に「手伝ふ」。最後の「大根引き」は名詞だが、動詞が転じた名詞。普通、一句に複数の動詞は禁物、と言われる。手元の藤田湘子著『新・実作俳句入門』を開くと、十三ある「実作のポイント」の八番目に「一句一動詞」の項が置かれ、「動詞の少ない俳句は、読んで安定感があり、印象も鮮やか」と動詞の複数使用を戒めている。ところが、大先生はその後に、動詞が多いと「句が軽快になりスピード感が出てくるというメリットがある」とも書いていて抜け目がない。まさに、掲句の良さを説明してくれているようである。畑に来た人と農夫のやりとりが、「軽快」かつ「スピード感」をもって表現され、ユーモラスな句に仕上がっている。
 たぶん最初の「持ってけ」が効いているのだろう。「持って行け」ではなく「持ってけ」と掛け声のような命令形の表現にしたことで、一句の臨場感がいっきょに醸し出されたのだと思う。
(可 20.12.13.)

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