南瓜割る妻の顔つき伐折羅さま  澤井 二堂

南瓜割る妻の顔つき伐折羅さま  澤井 二堂

『この一句』

 奥さんが南瓜を割ろうとしている。とても固く、鉈(なた)割り南瓜と呼ばれるものらしい。このタイプの南瓜を料理するには、丸ごと茹でればいい、コンクリートに叩きつければいい、などと言われるが、奥さんはあくまでも包丁を手に立ち向かう。句の作者、すなわちご主人は、そんな奥さんの顔つきが「伐折羅(ばさら)さま」のようだと詠んだ。
 ならば伐折羅さまとは? 薬師如来やその信仰者を守る十二神将筆頭格の武神である。例えば奈良・新薬師寺の伐折羅大将は髪を逆立て、目を見開き、大口を開けている。この顔つきで悪霊などを脅し、薬師様や人々を守ってくれることになっているが、「伐折羅さま」と呼ばれると、人々を優しく守る民間信仰の仏様のような感じもする。
 句の作者が分かって、思い当たることがあった。長く日本画を描いていて、相当な腕前の人なのだ。「仏画に凝っている」という噂も聞いていた。問い合わせたら「最近は不動明王とか怒りの顔にも興味を持っていまして・・・」。その一つが「伐折羅さま」であった。奥様の表情は目的を果たせば、たちまち「如菩薩」に変わるはずである。
(恂 20.11.22.)

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