初冬や浅間ひろびろ天も地も   堤 てる夫

初冬や浅間ひろびろ天も地も   堤 てる夫

『この一句』

 浅間山は美しく雄大な山である。私事ながら、長く携わった仕事の主力工場が佐久にあり、またよく利用した研修所が浅間山の麓にあり、出張するたびに何度もお目にかかった山である。
 まだ新幹線のない頃、軽井沢を過ぎたあたりから、車窓に浅間山を眺めながら、横川駅で買い込んだ峠の釜飯を楽しんだのを思い出す。空が晴れて、お山が綺麗に見えた時は、なんとなく仕事もうまくいきそうな予感がしたものである。研修所では、レポートがうまく書けず外に出た時、夕焼けに染まる浅間山を見て、レポートなんかどっちでも良い、と急に気が大きくなったのも思い出す。
 この句は、そんな浅間山の初冬の清々しさを気持ちよく詠んだ句である。「初冬」だから、すでに山頂には冠雪が見えている。空はおそらく真っ青に澄んでいるのだろう。その空を背景に、美しい稜線が麓までくっきりと見えている。地上の樹木はすでに葉を落としていて、その分だけ天も地もひろびろとして見える。
 「天も地も」という措辞が余計ではないかという評があった。なるほど俳句の仕上がりとしてはその通りかなという気がする。しかしながら、蛇足とは思いつつも「天も地も」と思わず詠まざるを得なかった作者と、その感動を共にしたいと思った。また、浅間山が見たくなった。
(可 20.11.11.)

この記事へのコメント

  • 水牛

    うーむ。「天も地も」が余計だとケチをつけたのはワタシです。このコメントを読んで「なるほどなあ、浅間を仰いでいるとこういう気持になるんだろうなあ」と納得しました。浅はかな評をしたこと反省しております。
    2020年11月11日 12:26