柚味噌の生麩田楽後の月 澤井 二堂
『季のことば』
季の言葉が入り混じっていて、本当に困ってしまう句である。まず柚味噌(柚子味噌)とくれば秋である。田楽と来れば春である。そして「後の月」はもちろん秋である。普通の句会では、このように無造作に季語を重ねてしまうことを最も嫌う。従ってこの句も人気が無く、点を入れたのは私ともう一人しか居なかった。しかし、欠点を補って余りある、何とも捨てがたい味のある句だ。
とにかくこの句は「後の月」、つまり十三夜の月見の句である。仲秋の名月のほぼ一ヵ月後、令和二年の十三夜は今日十月二十九日。これほど遅くなる年もめずらしいが、とにかく十三夜は十月中旬以降だから、夜はかなり肌寒さを感じる。燗酒をちびりちびりやりながら、まだ左端がちょっと膨らみ足りない十三夜を愛でる。「満つれば欠くる。物事、もう少しで満杯というところが丁度良いのだ」などと道学者のようなことをつぶやき、もう二、三杯。この時の肴といったら田楽に勝るものは無いだろう。それも柚子味噌を塗った生麩田楽が一番だと作者は言う。酒をあまり飲まない人だと思っていたが、なかなかの通人だ。
東京に居ても京都や金沢の生麩が容易く手に入る。柚子味噌も年中味わえる。便利な世の中になって、季語が入り乱れるのも宜なる哉である。
(水 20.10.29.)
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