老眼鏡外した跡や龍田姫 今泉 而云
『季のことば』
弱った、困った――またまた句のひねり出しに難産必至の季語が兼題に出た。錦秋の使者「龍田姫」は俳句の上の存在ながら、字義とおりに人間としての人格を持つのだ。だから各氏の投句も擬人法を使ったものが多かった。ちなみにこの兼題の最高点は「芦の湖を姿見にして龍田姫」。ほかにも擬人法と見た句に「百日紅に居残り命ず龍田姫」「濃口はいまだ好かぬと龍田姫」「袖口を藪にからめて龍田姫」「ブロワーに裳裾抑える龍田姫」「日光に輿入れせしや龍田姫」などがあった。いっぽう、「龍田姫」に借りて他のことを詠んだ句はそれほど多くなく、「大山の長き石段龍田姫」「龍田姫余生に一つ恋の夢」「龍田姫小江戸川越串団子」「これはもう恋かもしれぬ龍田姫」などだ。
この句、これは当然擬人法そのもの。奈良朝の昔から生き続けるさすがの龍田姫も、寄る年波に耐えきれずついに老眼鏡をかけるようになったと言っている。作者は身近に“往年の美女”でも見たのだろうか。あれこの人、こめかみに老眼鏡を掛けていた跡があるじゃない。その小さな発見をこの季語に借りて詠んだものと解釈できる。後から読み直すと諧謔味があって難物「龍田姫」に相応しい句だったと思う。採りそこなった句である。
(葉 20.10.18.)
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