秋の空余所行きを着てそこらまで 横井定利
『季のことば』
「秋の空」は初秋・仲秋・晩秋と八月初旬から十一月初旬まで三秋通じて使える季語だが、八月はまだまだぎらぎら照りつけるお日様にうんざりすることが多く、「いかにも秋空だなあ」と感じるのは九月末から十一月初めにかけての時期であろう。相変わらず陽射しは輝いているが、肌を焦がすという感じは無くなっており、吹く風は涼しく、空高くまで澄み透っている。
十月の声を聞くころになると、日本列島は大陸から張り出して来る移動性高気圧に覆われて「天高く馬肥ゆる」澄み切った青空が広がる。高空には刷毛で掃いたような巻雲(絹雲)が現れ、その下には群れなす鰯のような巻積雲が帯をなす。空気もついこの間までとは違ってべたつかず、さらっとした感じである。
こうした気候になると人はそぞろ遊び心をくすぐられ、旅に出たくなったり、繁華街へ買い物に出かけたいなどと思うようになる。ところがどっこい、コロナ禍のおさまらない令和2年秋は大手を振ってはしゃぎ回る気にもならない。せっかく作った余所行きも衣装ダンスにぶら下がったままである。しょうがない、ちょっと着てみて、近間の散歩でも・・。
「余所行きを着てそこらまで」がいかにも俳諧で、コロナ禍を離れても通用する素晴らしい句だ。
(水 20.09.28.)
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