星とんで熊除けの鈴響きをり  池村 実千代

星とんで熊除けの鈴響きをり  池村 実千代

『この一句』

 山道や高原を歩く人たちは鈴や音を立てる金具を腰に下げたり、携帯ラジオを鳴らしたりしている。「熊除け」である。本州に棲むツキノワグマは好んで人間を襲ったりはしない。出会い頭にぶつかって驚いた時や、獲物を追っている最中や、これから餌場に向かう途中などで遭遇すると、怒って襲いかかってくるのだという。だから予め遠くから「ここに人間がいるよ」と知らせてやるのだ。
 とにかく、熊除けの鈴の響きが聞こえて来るということだから、人里離れた場所にいるのであろう。初秋の山荘かも知れない。ちょうど星を見るのに良い時分だ。都会の夜は明るすぎて、空は汚れっぱなしだから、星なぞ金星と火星くらいしか見えない。しかし、山荘のバルコニーから仰ぐ夜空は、これが同じ日本の空かと思うばかりの美しさだ。澄み渡り、天の川もはっきり見える。流れ星もすーいと飛んでは、「あらまたお願い唱えるの忘れてしまった」なんて呟いていると、また別の方角にすーっと飛ぶ。
 もうそろそろ山荘を閉じる頃合いである。「あーこれで今年の夏休みも終わり。明日はまたコロナの東京に戻るのね。もう一つ流れ星待ちましょう。今度こそ『コロナ封じ』を祈るのよ」と決めて、見上げる。
(水 20.09.22.)

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