新涼や久方ぶりの理髪店     髙石 昌魚

新涼や久方ぶりの理髪店     髙石 昌魚

『季のことば』

 「暦が秋になってしみじみと感じる涼しさを、俳句や短歌の世界では『新涼』『秋涼し』『初めて涼し』と言う」(水牛歳時記)。立秋を過ぎてもまだ暑さが続く中で、ふと感じた涼しい気分が「新涼」である。
 掲句の作者は、コロナ籠りで外出を控えていたのであろう。髪が伸びたため、意を決して行きつけの理髪店に出かけた。久しぶりの外出で、季節の変化を実感したのではなかろうか。公園で蜩の声を聞いたか、コスモスの花を見つけたか。「久方ぶり」という改まった表現の中七が、秋の気配を見つけた喜びと、髪を切ってさっぱりした気分の両方と、よく響き合っている。
 理容・美容室の利用状況調査をネットで見ると、男性は2カ月に1回が44%と最も多く、1カ月に1回と、3カ月に1回がそれぞれ25%台で続く。60代以上に限ると44%が1カ月に1回以上利用しており、外出自粛で不自由をかこった人が多かったと想像できる。
 91歳の作者が久方ぶりに訪れた店は、今流行りのカット千円のお手軽床屋ではなく、きちんとした理髪店であろう。顔そり・シャンプーまですませ、うなじの辺りに涼しさを感じながら、気分良く店を出る作者の姿が浮かんでくる。
(迷 20.09.01.)

この記事へのコメント

  • 酒呑洞

    「新涼」という季語と実によく合っている句ですね。「久方ぶりの理髪店」というのがまた何とも言えない味です。これもやはり「コロナ籠もり」が影響しての「久方ぶり」なのでしょうが、それをあからさまに言わないところがいい。
    2020年09月01日 22:16