黒い雨浴びて八十路の広島忌 徳永 木葉
『この一句』
8月6日の広島上空で「リトル・ボーイ」が炸裂した後、煤などを含む黒い雨が降った。放射能雨の被曝被害者をどう救済するか。被爆から75年、被爆者援護法の適用を求めた集団訴訟提訴から5年、広島地裁は7月29日、黒い雨の「大雨」地域にとどまらず、「小雨」地域も援護法の適用対象とする判決を下した。しかし国と県・市は控訴の手続き。原告84人(物故者16人を含む)、援護法の対象となる癌などの特定疾病を現に発症しているのに、なんとも不条理な話だ。
「黒い雨」は井伏鱒二の長編小説。被爆者の男性と原爆症を患った姪を巡る記録文学は1965年(昭和40年)から翌年秋まで雑誌連載が続いた。この原作を映画化したのは今村昌平監督。1989年(平成元年)の日本映画ベスト・ワンに輝いた。昭和期話題の題材が令和の世になっても決着しない現実は哀しい。「大雨」「小雨」の線引きで、援護の規模を抑制してきた行政が腹立たしい。GoToトラベルに1兆3500億円を用意する安倍政権。ああ!
淡々と詠んでいる作者、心の内には怒りが充満しているに違いない。八十路を生きる御仁の平安を祈るばかりである。
(て 20.08.28.)
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