ひきがへる夜の歩道の真ん中に   旙山 芳之

ひきがへる夜の歩道の真ん中に   旙山 芳之

『季のことば』

 蟇(ヒキガエル)はずんぐりむっくりして、黒褐色の背中はいぼいぼ、腹側はぬめっとした感じの乳白色の皮膚に灰色の雲型の斑紋がある。何とも気持が悪いとご婦人方には嫌われ、悪童にはいじめられるが、実におとなしく、悪さを全くしない。それどころかうるさい蚊や蠅や蛾をせっせと捕ってくれる貴重な生き物である。
 水温み始める頃、冬眠から醒め枯葉や穴の中から這い出して田圃や池沼で雌雄合体し、寒天状の長い紐のような卵塊を生むと、また土の中に潜って春眠をむさぼる。そして4月末から5月になると再登場、今度は寒くなるまで地上で活動する。活動と言っても動きは鈍く、昼間は物影に潜み、夕闇迫る頃に出て来て食糧になる昆虫を捕る。それも暗闇にじっとうずくまって口を開け、虫が寄って来ると舌で吸い取ったり、呑み込んだりする何とも悠長なやり方だ。
 あまり人を恐れず、夜間の歩道にどでんとしている。街灯に集まる虫をねらって歩道に出て来るらしい。この句はその様子を見たまま詠んで、ユーモラスな感じを与える。筆者も全く同じ情景に出くわすこと再三。最寄駅から我が家への「せせらぎ緑道」という歩道に毎夜現れる。「お前踏んづけられちゃうよ」と声掛けるのだが、無論聞く耳持たぬ。無念無想、いかにもガマ仙人といった風情だ。
(水 20.07.19.)

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