夜濯やむつきの暖簾くぐりけり 塩田 命水
『おかめはちもく』
襁褓(むつき)はおむつのこと。御襁褓(おむつき)の「き」が取れて「おむつ」になったとか。今や紙おむつ全盛で、布のおむつを使う家庭は少ないと思うが、昭和の親は概ね布おむつを多用した。
今やお孫さんがいる作者も子育てのころは、布のおむつに世話になったことだろう。句にリアリティがある。汚れた布おむつはその都度洗わず、専用のたらいなどに浸けておき、まとめて洗うことが多い。溜まったおむつを夜濯し、部屋中に干している景が浮かぶ。その様を「むつきの暖簾くぐりけり」と詠んだ表現が素晴らしい。生活感の中にペーソスが混じり、夜濯の季語によく合っている。
ただ残念ながらこの句には「や」と「けり」の強い切字が二つある。句会で水牛さんが評したように「や」と「けり」という二つの大きな切字で句がばらばらになってしまった。掲句の場合、この傷を消すのは簡単で、「夜濯のむつきの暖簾くぐりけり」、と「や」を「の」にすれば解決する。作者もこのことは充分承知で、多分うっかりだと思う。筆者にも似た経験はある。有名な「降る雪や明治は遠くなりにけり(草田男)」は、例外中の例外であって、「や」「かな」、「や」「けり」の重複には気をつけなければ、と自戒を込めて肝に銘じた。
(双 20.07.15.)
この記事へのコメント