眠る子の握りこぶしや柿の花 谷川 水馬
『この一句』
柿は梅雨の頃に白い小さな花をつける。柿若葉の中に隠れるように咲き、数日で落花するので、咲いているところよりも、落ちた花を見ることが多い。雄花と雌花があり、品種によって雌花だけが咲くもの、両方とも咲くものがあるという。花は秋に蔕(へた)となる緑の大きな萼(がく)に囲まれている。黄みがかった白色で、四片の花びらが塊り、先端を反り返らせた形で咲く。
作者は柿の花を赤ん坊の握りこぶしに見立てている。まさに言いえて妙で、小さく寄り集まった白い花弁は、幼子の無垢な手とイメージが重なる。実際に柿の花を見ないと湧かない発想だと思う。句会でも「図鑑で調べてみたら、本当に子供の握り拳のような形をしている」(命水)と得心した人が多く、「柿若葉の下に乳母車を停めたのではないか」(水牛)という解釈もあった。
柿の花言葉は「自然美・優しさ・恵み」など、少し地味なこの花に似つかわしいものが並ぶ。掲句は柿の花と握りこぶしが似ているというだけでなく、眠る子への優しい視線が心に残る。柿の花の中には子房があり秋の実りを待っている。幼子の健やかな成長と子孫繁栄を願う親心も重なり合っているからであろう。
(迷 20.07.07.)
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