真ん中で墓が見守る田植かな   岩田 三代

真ん中で墓が見守る田植かな   岩田 三代

『この一句』

 日経俳句会の上期合同句会で、13得点という圧倒的人気を博した句だ。参加者は40人弱だったので、3人に1人が採った勘定だ。選んだ方々の句評を集約すると、「ご先祖さまに見守られ、今年も米作りが始まった。懐かしいような羨ましいような、いつまでも残したい日本の原風景」ということのようだ。
 筆者も似た様な風景をあちこちの地方で見かけた。広い田圃の中央に、一際目立つ堂々たる墓が建っていた。青田であったり、稲穂であったり、季節はさまざまだったが、田植こそ似合いそうだ。そんな景色に出会う度に一句に仕立てたいと何度も試みたが、なかなか上手く詠めなかった。
 自分が詠もうとして叶わなかった風景や句材を、ほかの人が見事に575に収めた一句に出会うと、一も二もなく惚れ込むことは、誰しもあるのではないだろうか。この句は正にそれだった。実に素直な詠み方で、情景がすっと頭に浮かぶ。農耕民族のDNAゆえか、妙に懐かく暖かな気持ちにさせてくれる。
 「土に生きた人は死んだ後も自分が耕した田を見守り、豊かな実りを子孫に届けたいと願ったのでしょうか」という作者の気持ちが、しっかりと読者に届いた秀句で、上半期の収穫の一つだと思う。
(双 20.07.06.)

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