金平糖一つ買ひ来て百万遍 池内 的中
『おかめはちもく』
百万遍は五十年前にうろうろしていた懐かしい学生街である。古本屋をのぞき、パチンコ屋で時間をつぶし、近くの公設市場で一番安いハムカツを買って下宿に戻る。そんな日々を送っていたので、この街に由緒ある金平糖屋があることなぞ、この句を読むまでついぞ知らなかった。老舗の金平糖を買って贈る人などいない『男おいどん』の暗い日々だった。
この句は面白い材料に目をつけたのに、残念ながら無季の句になってしまった。やはり季語を入れて有季の句にしたいところである。
無季になった理由の一つは、「金平糖」と「百万遍」を入れたかったことだろう。合わせて十二文字、残り五文字しか余裕がない。もうひとつの理由は、「一つ」と「百万遍」を掛け合わせて表したかったことだろう。あれもこれも入れたくて、季語の入る余裕がない。この気持ちは本当によくわかる。自分も句作していて、なんどもこんな雪隠詰めの状態になった。特に面白い着想を得て「しめた!」と思った時に起こりがちである。
ここは、つらいけれど何かを捨てるしかない。たとえば「一つ」を落として「はつ夏の百万遍の金平糖」とか、「百万遍」も落として「金平糖ひとつ摘まんで京の夏」とか・・・。(ムムム、なかなか難しいなあ)
『おかめはちもく』などとはおこがましい。雪隠詰め体験を共有する者からの「エール」です。
(可 20.06.23.)
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酒呑洞