笛太鼓蔵を出でずも夏初め    杉山 三薬

笛太鼓蔵を出でずも夏初め    杉山 三薬

『この一句』

 通常の句会では、ある句を採った人がそれぞれ選んだ理由を述べた後、進行係が「作者はどなた?」と名乗りを促す。作者は「〇〇です、こんなに点がはいるとは。いや、ありがとうございます」と、嬉しいやら恥ずかしいやらの表明。こういう面と向かってのやりとりが句会の醍醐味の一つだが、このところメールによる選句、選評が続き、高点を取った作者の感想も後からメールで送られてくるようになった。
 掲句は日経俳句会5月例会の高点句。作者から送られてきた自句自解がとても楽しいので以下に紹介したい。「府中暗闇祭り、神田祭り(隔年)が私にとっての夏初め。そこから三社祭、真夏の天神祭、東北三大祭りへとかけのぼる。現地に行けなくても、テレビ参加で気分を味わうことができる。それが、全部消えちまった。厄祓い、無病息災を願うのが祭りの目的なのだから、止めるのは本末転倒、と息巻いてもアトの祭り」。
 全国各地の夏祭りが軒並み中止になってしまい、今年は本当に寂しいばかり。この句は、御輿が蔵を出られないのではなく、笛太鼓としたところが洒落ている。軽妙洒脱な作者らしい作品だ。
(双 20.06.18.)

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