たとう紙の絽に浮かぶ母衣更え  久保 道子

たとう紙の絽に浮かぶ母衣更え  久保 道子

『合評会から』(酔吟会)

反平 何だか切ない作者の気持ちがよく出た佳句だと思う。それにしても、着物。買取業者がさかんに売ってくれと宣伝しているけれど、何だかうさんくさい。小生の家内も業者を呼んで処分しようとしたが、曰く「これはちょっと買えませんね。それより何か金製品はありませんか」だと……不愉快。
ゆり お母様から譲り受けた着物を広げて、思いをはせる時。絽の着物だから、お洒落で素敵なお姿に違いないでしょう。
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 衣更えの時期。思い立って亡き母親の桐箪笥から畳紙を引き出したら、絽の着物が出てきた。着ていた頃の声や姿までが瞬時に思い出され、思わず頭の中を駆け巡ったというところだろうか。「絽」という羅(うすもの)で亡き人が透けて見えるような感じがします。きっと絽の着物が似合う母上だったのだろう。その思い出を二束三文で買い取ってしまう業者のテレビCMを見るたび、弱肉強食の世間を思わざるをえない。よそながら、作者には母上を思い出す品を大事にしてほしい気がしてならない。
(葉 20.06.08.)

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