空豆の夏場所消えてしまひけり 大澤 水牛
『この一句』
伝統を守る大相撲の世界は食材の仕入れでも、明治、大正の流通を受け継いでいるという。例えば両国国技館の名物、焼鳥である。千葉など近県の特定の農家から運ばれてきた大量の鶏肉は、館内の調理場でさばき、焼き上げ、桝席に運ばれてくる。そして夏場所(五月場所)とくれば、何を差し置いても空豆を挙げねばならない。
季節感たっぷり、味も絶品の空豆である。ある大相撲ファンは「夏場所の桟敷席で空豆を肴に一杯」を生涯の目標に掲げているほどなのだ。掲句はその夏場所を「空豆の~」と表現した。句を見たとたん、筆者は「上手く詠むもんだねぇ」と感嘆したが、句の後半によって現実に引き戻された。夏場所は消えてしまったのである。
中止の理由は説明するまでもない。さらに七月の名古屋場所も中止し、名古屋場所は東京・国技館に変更の予定だが、相撲協会は「無観客を目指す」という。一方、力士たちは体と体が触れ合うどころか、ぶつかり合い、もみ合いながら鍛え込まねばならない。彼らは復活を目指し、どのような道をたどって行くのだろうか。句の下五「しまひけり」には、これからの大相撲への思いが漂っている。
(恂 20.06.03.)
この記事へのコメント