オンラインのほのかなる時差春愁  大下明古

オンラインのほのかなる時差春愁  大下明古

『季のことば』

 汗ばむほどの季節になってきた。読者はこの句の「春愁」という季語がいささか時宜を得ないのではと思われるかもしれないが、五月の番町喜楽会の作品である。春には「春愁」秋には「秋思」があり、それぞれ物思いの感情を表している。夏と冬は、と言えばしっくりする同意の季語がないように思う。体の適応に追われる猛暑、厳寒下では、物思いどころじゃないということだろう。
 作者はコロナ禍のいま、友人とオンライン俳句に興じていると聞いた。LINE、ZOOM、SKYPEなどの何かでやりとりしているのだろうか。たしかに相手との受け答えには微妙なズレがある。一秒の何十分の一かもしれないが、対面の句座とはちょっと違う。その違和感を「ほのかなる時差」と詠んで、「春愁(はるうれひ)」だと言うのだ。きわめて当世的なIT事象をとらえて、季語を詠み入れたものだと思う。「時差」というほどの大げさなズレではないが、作者の鋭敏な感性が読み取れる。
 作者はオンライン俳句を通じて、俳号「明古」を付けるようになったとも言っている。本名を長く守って俳号とは無縁だった作者が、心境に変化を来たしたのもコロナ禍の副産物だろうか。
(葉 20.05.26.)

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