川風にただ吹かれをる立夏かな 向井 ゆり
『この一句』
川沿いの道か、堤の上か、はたまた橋の上か。あたかも立夏の日、時刻は夕方のような感じである。散歩か、買い物なのか。作者は家を出てしばらく歩いた辺りで川風を感じて立ち止まっているのだろう。ただそんな程度のことを詠んでいるのだけなのに「いいなぁ」と思わせる句である。
このタイプの俳句を私は「脱力の句」と名づけている。周囲の具体的な状況や作者の特別な様子などは何も見えて来ないのに、何かを感じさせる句のことだ。気取っただけなら失敗作に終わりがちだが、この句は相当いい線を行っているぞ、などと考えていたら、一人の選者の句評が目に入ってきた。
「さらりとした風情の底にひそむフィア」(十三妹)。「フィア」とは「恐怖」のことか、と腕を組んだ。この句もまた新型コロナウィルスが背景にあるのかも知れない。川風に吹かれて、ふと立ち止まる。この心地よい風の中にもウィルスが潜んでいるのか、この後、我々はどんな成り行きを迎えるのだう・・・。俳句の解釈をこのように捻じ曲げてしまうウィルスは、何とも恐ろしい奴らである。
(恂 20.05.21.)
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