あたらしき命さづかる穀雨かな 廣田 可升
『この一句』
この句には「緊急事態宣言下女児誕生」の前書きがある。
この時期のお産は、院内感染など何かと気苦労が多く、家族はさぞ心配したと思う。無事出産し、母子ともに健康だったようで、この句からは作者の安堵と喜びがひしひしと伝わってくる。多分お孫さんのことだろうが、「本当に良かった」、「おめでとう」と心より祝福する声が集まった。
季語「穀雨」は二十四節気の一つで、百穀を潤す春の雨のこと。新生児誕生の喜びを表現するのに、まことに良い季語を選んだものだと感心した。句会は5月初めで兼題も「立夏」だったので、季節が少し後戻りするが、季節の変わり目には往々にしてよくあることだ。令和2年の穀雨は4月19日から立夏の前日5月4日までだったが、とにかく春から夏への橋渡しの季節であり、新しい命の誕生を詠むにふさわしい。
筆者は前書きに惹かれて採ったのだが、前書きは「女児誕生」だけでよいとの声もあった。ただ、何度も読み返しているうちに、前書きがなくてもしみじみとした佳句だと思えてきた。「前書きがなくても一句として独立解釈でき、その上で前書きによって、なるほどと思わせるのが理想だろう」とは、ある俳人の言。何はともあれ、実にめでたく幸せのお裾分けをいただいた気持ちになる。
(双 20.05.20.)
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可升
酒呑洞