草餅を蒸す花柄の三角巾 高井 百子
『季のことば』
草餅は蓬(よもぎ)を搗き込んだ餅。春たけなわの頃、野原や川岸で蓬の若葉を摘んできて湯がき、餅に混ぜ込む。鮮やかな緑色と若草の香り、苦みが五感を刺激し、春を噛みしめる思いがする。中にあんこを入れたり、黄な粉をまぶして食べる。日本人にとって馴染み深い食べ物であり、仲春の季語となっている。
草餅を作る時は、材料となるもち米か上新粉を蒸す必要がある。掲句はそこに花柄の三角巾を登場させる。蒸し器の底や蓋の内側に布巾代わりに置いたものと見ることもできるが、ここは作業をしている女性の頭を飾っていると考えたい。花柄の三角巾とくれば、お婆さんより若い女性が似合いそうだ。
蓬は生命力が強く、日本中どこにでも自生している。草餅のレシピもネット検索で沢山出てくる。郊外に出かけた家族がきれいな蓬を見つけて摘んで帰り、若いママが張り切って蓬餅づくりに取り組んでいる場面が浮かんでくる。山口青邨に「草餅の濃きも淡きも母つくる」の句がある。三角巾のママが作った草餅も、その味と共に母の記憶として子供たちの心に刻まれるに違いない。
(迷 20.05.12.)
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