ようそろと父の声聞く朧の夜 池村実千代
「この一句」
句を見てすぐに選ぶと決め、幹事には次の短評を送った。「船乗りだった父の遥かな声。“ようそろ(直進)”に粛然とする」。作者の悩み、惑いに対する父の「真直ぐ進め」の声・・・。父上は船乗りだったのだろうと思ったが、確証はない。メールで作者に確かめたところ「海軍の軍人だった」との返信があった。
「ようそろ」は「宜候」と書き、「(船の)進路はそのまま」つまり「曲がらずに行け」を意味するとされる。胸に双眼鏡を下げて甲板に立ち、海原を見つめる軍人の姿が浮かんで来る。父上は南方の海で戦い、生死の境さ迷うような体験を何度か経て来られたに違いない。
戦後生まれの作者は父の晩年、亡き戦友たちの慰霊の旅に何度も同行し、戦争に関わるさまざまな思いを胸に刻んで来た。朧の夜、作者の耳に亡き父の「迷わず行け」という言葉が聞えて来る。世の中が厳しい状況に置かれている今、さまざまな「ようそろ」が存在することも分かってきた。ついでながら、ご主人とヨットに乗った時の「ようそろ」もあるそうである。
(恂 20.05.06.)
この記事へのコメント