寂寞と春の夜更けてポトフ煮る  中嶋 阿猿

寂寞と春の夜更けてポトフ煮る  中嶋 阿猿

『この一句』

 いきなり寂寞という硬い言葉で詠み出す。寂寞は「せきばく」「じゃくまく」と読み、ひと気がなく物寂しいさまをいうが、日常的にはまず使わない。これは詩語として用いているから「じゃくまく」と読ませようというのかも知れない。とにかく新型コロナ感染拡大防止のため緊急事態宣言が出された前後の作品。外出自粛で日本中が逼塞している時だ。
 いつもなら夜桜見物に出かけたり、馴染みの店で飲食を楽しむところだが、値千金の春の宵も家に籠らざるを得ない。花冷えに加えて、人通りも絶えて気も滅入る。それなら気分を変えてポトフでも煮るか。そんな情景であろう。
 戦後最大の厄災といわれ、異例の事態に不安が募る。そうした内心を寂寞という硬質な言葉で表現し、「ポトフ煮る」という温かみのある言葉で和らげる。ちょっとお洒落なコロナ蟄居句だ。
未知のウイルスとの戦いは長引く見通し。家籠りが続くと、毎日のメニューにも頭を悩ませる。幸い時間はたっぷりある。いろんな野菜を牛肉やソーセージと煮込んだポトフは、身体や心を温めるだけでなく、免疫力も高めてくれそうだ。
(迷 20.05.01.)

この記事へのコメント

  • 阿猿

    迷哲さん、素敵な選評をありがとうございます。まさにまさにそういう感じです。自粛中週1回ペースでつくっている塩豚のポトフ、肉の熟成に1週間、煮込み3時間というどこにも行けないからこそできるお料理です。免疫力も高まります。
    2020年05月03日 10:18