母子草ほかに九種の咲く更地 大下 綾子
『季のことば』
母子草(ははこぐさ)は住宅地の道端にも生え、晩春、草丈10センチから20センチの天辺に小さな黄色い花がかたまって咲く。それで春の季語とされているのだが、前年の秋に芽生えて年越しした頃は、細かな綿毛が密生したビロード状のやや厚ぼったい小葉を地面にひっそりと這わせている。その頃の名前はゴギョウ(御形、御行)で、春の七草の一つとして摘まれ、七草粥に炊かれる。同じ草が名前を変えて、新年と春と二度登場する珍しい季語だ。
この句の面白さは何と言っても「ほかに九種の」という詠み方にある。雑草という草は無いとの名言を宣うた御方もいらっしゃるが、とにかく雑草というものは大変な生命力で、道端にもちょっとした空地にもすぐに芽を出し、あっという間にはびこる。古い家屋が取り壊されて更地になったと思ったら、ひと月たったかどうかというくらいで緑の草地になってしまう。
いったいどんな草がはえているのかしらと見つめる。母子草は知っている、ハコベ、イヌノフグリ、ぺんぺん草、タンポポも分かる。さてその他は・・・、数えてみたら九つある。空地とか更地とか一口に言うけれど、小さな命がぎゅっと詰まっている。
(水 20.04.24.)
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