梅二本早や満開の老い始め 大平 睦子
『季のことば』
梅はもとより初春を代表する季語である。百花に先駆けて咲くから古歌では「花の兄」とか「春告草」とも歌われている。「探梅」という冬の季語もある。これは何とかして人より先に梅の咲くのを見つけようと、立春の前に梅林をほっつき歩く物好きの行動を言ったものである。
この句の作者はゆったり落ち着いて、腰を据えて満開の梅を眺めている。「今年はいつになく咲くのが早いなあ、もう満開だわ」とつぶやいている。満開の梅は実に美しい。付近には花はおろか木の芽も出ていないから、ことさら目立つ。『二もとの梅に遅速を愛すかな』の蕪村句を思い浮かべながら、「この二本は競争するように同時に満開になっちゃった」「でも、満開となれば後は散るばかりよね」と、「老い始め」なる下五を付けた。
そういう流れからすると、何となく淋しいうらぶれた感じの句になるはずなのだが、この句は全然そんな感じがしない。至極当然の成り行きを詠んで淡淡としているのだ。この辺りが常に泰然自若たる作者の真骨頂である。
(水 20.03.05.)
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