追焚きの湯に浸りたる雨水の日  向井 ゆり

追焚きの湯に浸りたる雨水の日  向井 ゆり

『季のことば』

 雨水は二十四節気の一つだが、馴染みは薄い。立春、立秋、冬至、夏至などは誰でも知っていて日常会話でも普通に遣う。ところが、穀雨、小満、芒種などは、ほとんど知られていない。雨水もまた採用されてない歳時記が散見されるほど地味な季語だ。雪が雨にかわり、雪解けが始まり寒さも峠を越えて春の兆しを感じるころの意だという。立春と啓蟄の中間、2月19日ころで、この日にお雛さまを飾ると良縁に恵まれ幸せになれるとか。農耕の準備を始める時期でもあるらしい。
 句会開催が正に2月19日で、掲句はあえてその日にぶつけたと思われる。何らかの事情で遅く帰宅した作者は、冷めてしまった残り湯を追い炊きし、浅春の冷えた身体を湯船に浸す。去来するのは、今日一日のことか、あるいは子の行く末か。冬が終わり春になるのは嬉しいが、一抹の寂しさを感じる。夜遅く残り湯に浸りながら、春の愁いに静かに身を委ねている様が浮かんでくる句だ。(双 20.02.24.)

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