二駅の近郊線に蕗の薹      鈴木 雀九

二駅の近郊線に蕗の薹      鈴木 雀九

『この一句』

 句を見た途端、そうだ、この通りだった、と思った。小学校低学年の頃、似たような場所で蕗の薹を摘んだ覚えがある。神奈川県の寒川神社に向かう途中の踏切の中だった。母親が「ほら、あそこに」と指さし、一つが目に入ると次々に見えてくる。電車はめったに通らない。線路の方に入ると周囲の砂利の中に、さらにたくさん顔を出しているのであった。
 このような記憶は消すことが出来ない。私の頭の中の蕗の薹は、いつも踏切や線路の中に芽を出していて、この句を見たら、絶対、断固、誰が何と言おうと、選ぶしかない。おかしなもので「この句はオレのものだ、他の人は選ぶな」という思いさえ湧いてくるのだ。
 作者によれば、茨城・竜ケ崎線の情景だという。JR常磐線の佐貫駅から竜ケ崎までの4・5㌔。実は私にも多少縁のある鉄道で、始発駅と終点の間に一駅あったと思うのだが、俳句作品なのだから、そんなことは問題ではない。なおこの句はもうお一方が選んでくれて結果は「二票」に増えた。嬉しかったが、残念という思いも少々残っている。
(恂 20.02.23.)

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