永き日や数独をとく船の上   池村 実千代

永き日や数独をとく船の上   池村 実千代

『この一句』

 新型コロナウィルスの流行が世界を脅かしている最中、その渦中にあるクルーズ船から送られてきた一句だ。「いま話題のダイヤモンド・プリンセスに乗っています。句会には出席できません」と作者から筆者に驚きの一報があった。「元気にしてるのでご安心を」とも綴られていた。メール投句の取りまとめをしている筆者が折り返し「ぜひ投句を」と連絡すると、「歳時記も何もないけど頑張ります」と気丈な返信。掲句のほかに3句送ってきた。ただ、掲句からはクルーズ船であることは読み取れず、淡々とした詠み方なので、作者に断って「クルーズ船にて」の前書きをつけさせてもらった。句会では誰もが一様に驚き、句友の無事を念じて一票を投じた。前書きがなくても素晴らしい句と評判で、「天」に輝いた。
 「数独難しくて悪戦苦闘しています。でも何かに集中するって大切ですね」、「不安のなか俳句をつくることで心が元気になり免疫力アップです」などなど、作者は気弱な素振りを微塵も見せなかったが、本心は先行きが見えず不安で一杯だっただろう。ともあれ、19日に真っ先に下船できたのが何よりだった。
(双 20.02.21.)

この記事へのコメント

  • 酒呑洞

    恐らくは気が気じゃなかったに違いないのに、数独を解いています、とはねえ。感嘆しました。それに「永き日」という季語に、「かなりうんざり」の気分を乗せた感じなのが実に面白い。
    2020年02月21日 19:48
  • 双歩

    数独を解いて計算に集中することで、少しでも余計なことを考えないように気を紛らわせていたのでしょうね。切ないなあ。
    2020年02月21日 21:40
  • 迷哲

    永き日は、春の日永でもあり、14日間の拘束の永き日でもあったのですね。この季語と数独に重ねた作者の思いの深さが、改めて心に沁みます。
    2020年02月21日 22:11
  • 鈴木雀九

    私は月齢の句会で池村さんの句を選句していることがよくありますが(ホント)、この句は選びませんでした。それだけ極限状態で作られた句なのでしょう。19日に釈放!された由、すっくと立つ姿が印象的な池村さんに足のあることを確認して、おめでとうございますと言うつもりです。鈴木雀九
    2020年02月21日 23:09