凍鶴やモノクロームの風のなか   印南 進

凍鶴やモノクロームの風のなか   印南 進

『この一句』

 第二次大戦の終戦後間もない頃、東京・井の頭公園の動物園に鶴が飼われていた。寒いさ中のこと、悪童たち数人と公園に遊びに行って、檻の中の“動かぬ鶴”に出会
い、しばらく見つめていたことがある。全く動かぬ大きな鳥を見て、何で動かないのか、と不思議に思った。
 あの時の鶴は一本脚で立っていた。もう一方の脚は胴の中に抱え込む形だったと思う。悪童の一人が、あの脚に石をぶつけたらどうなるか、と言った。鶴は金網に囲まれた広い檻の中にいた。たとえ石を投げたところで、金網に阻まれていただろう。もう七十年の時が立っているが、一本脚で立つ鶴の姿が忘れることは出来ない。
 句会では「モノクロームの風」を称賛する声が多かった。風に色はないはずだが、言われてみればあの時も風が吹いていたような気がする。たしかに「モノクロームの風」は洒落ている。凍鶴にまさに相応しい風だ、とも思う。その風の中に、ふと赤色が浮かんで来た。あの時の凍鶴は丹頂だったに違いない。
(恂 20.01.30.)

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