除夜の鐘ゴーンと鳴るは逃げた後  荻野雅史

除夜の鐘ゴーンと鳴るは逃げた後  荻野雅史

『この一句』

 日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告のレバノンへの逃亡劇は、昨年末のビッグニュースとして世界を驚かせた。この句はそのドタバタ劇を詠んだ時事句として人気を集めた。もっとも、採った人たちは「なんだか川柳っぽいが」と付け加えていた。ではどこが川柳のようなのか、俳句と川柳の違いはどこにあるのかを考えた。
 和歌をルーツとする俳句と川柳は兄弟みたいなものだ。和歌の五七五の上句と七七の下句を別々の人が詠む遊びから連歌が生まれ、より遊戯性の高い俳諧連歌(連句)になり、その発句が独立して俳句となった。そして連句の四句目以降の自由自在に詠める「平句(ひらく)」が川柳になったという。川柳は話し言葉を積極的に用いて人情の機微やタイムリーな話題を詠み、今日も確固たる文芸の一ジャンルを占めている。軽みやおかしみを重視し、毒を孕んでいることも必要だとか。掲句は概ねこの条件に合致している。
 この句が連句会で詠まれていたら、喝采を浴びただろう。大晦日に楽器の箱だかに潜んで逃れたゴーンを除夜の鐘に合わせた機知あふるる詠みっぷりにはほとほと感服した。
(双 20.01.22.)

この記事へのコメント