冬夕焼けこの人生を肯定す    中嶋 阿猿

冬夕焼けこの人生を肯定す    中嶋 阿猿

『この一句』

 こういう句を作るのは難しい。投句するのはもっと難しい。そんなふうに思った。
 俳句で人生を語るのは特異ではないが、普通は何かの物や事に仮託し、真正面から「この人生」と詠むことは少ない。この句を散文を読むように意味をたどれば、きわめてポジティブな気持の表現と解釈することができ、ひとつ間違えば鼻持ちならない句と捉えられてしまう恐れもある。
 「この人生を肯定す」ときっぱり言い切る大胆さに、むしろそこにいたる逡巡や、憂いのようなものを断ち切ろうとする心のありようを感じた。そうでも言い切らないと「やってられないわ」というような作者の気持を感じた。「冬夕焼け」で切れて、「この人生を肯定す」ときっぱり切る韻文の効果から、そういう句意を濃厚に感じた。また、そう解釈すると、「冬夕焼け」の季語が、いっそう鮮やかで美しいものに感じられる。
 作者が女性だとわかって、「やっぱりなあ」と思った。こういうことを素直に表現するのは女性の方がはるかに得手である。男性にはなかなか作れないし、作っても投句する前に怖気づいてしまう気がする。すこし羨ましく思った。
(可 19.12.27.)

この記事へのコメント

  • 双歩

    半世紀を生きてきた作者の紆余曲折を、ほんの少し知っている(と勝手に思っている)身としては、「なるほどなあ」と実に腑に落ちる素敵な解説でした。
    2019年12月27日 22:42
  • 酒呑洞

    句も素敵だけど、このコメントが素晴らしいなあ。句会でこの句を見たとき、もちろん作者が誰か不明で、男か女かも分からない時、まあなんと幸せな人よ、それともヤケクソか・・、とにかく採れないなと思ったのが正直なところでした。しかし、コメントの「こうでも言い切らないとやってられない」というのを見て、なるほどなあと感じ入り、改めて句を読み直すと、実に潔い句だと感服した次第。こういう句を詠める人は、必ずや素晴らしい人生の第三楽章、第四楽章を送れる人に違いないと思いました。
    2019年12月28日 18:06
  • 阿猿

    可升さん、味わい深い選評ありがとうございます。言葉は力強いですが、実際は「まあいいか〜」という気持ちで詠んだ句です。年末までにやろうと思っていたことがたくさんあるのに、あれもこれも手をつけられない…となんとなく焦りを感じ、でもあまりに平和な夕暮れだったので、いろいろあるけど平和に一年暮らせたことに感謝しようと。「この人生」には誰のどの人生も、という気持ちも込めています(「わが人生」ではない)。「なんとな句」も読み手次第で多彩なストーリーが描けるところが俳句の面白さですね。可升さんのミイラの句、乾いたユーモアが素敵でした。
    2019年12月28日 18:18