なぜここへビルの谷間に秋の蝶  政本 理恵

なぜここへビルの谷間に秋の蝶  政本 理恵

『季のことば』

 「蝶」とだけ言えば春の季語であり、大型で色彩鮮やかな「揚羽蝶」は夏の季語となる。そして八月以降の蝶は「秋の蝶」と詠まねばならない。しかし、実際には蝶は夏から秋に活発に飛び回り繁殖活動をする。そして冬になってもまだ生きていて、ごく少数だが、枯葉の下に潜り込んで越冬する頑張り屋もいる。
 ことに、子孫維持に最後まで励もうと頑張る秋の蝶は印象的だ。この句のようにビル街にまで飛んで来ることがある。回りはきらきら輝きながらも冷たい石の建物、それがどこまで昇っても尽きない高みにまで聳えている。足元はこれまた冷たい石畳。まばらな街路樹とその下の植え込みはせせこましくて、何とも頼りない。もともと蝶々が飛んで来るような場所ではないのだ。
 「どうしてこんなところに飛んで来たの」と作者は蝶に語りかける。毎日毎日仕事に追い掛けられるような気持で暮らす身にとっては、突然現れた蝶に何とも言えない癒しを与えられた。「どうもありがとう」と思いながら、「ところで、あなたはこれからどうするの」とつぶやく。(水 19.10.30.)

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