母からの荷物の隅に柿二つ    向井 ゆり

母からの荷物の隅に柿二つ    向井 ゆり

『この一句』

 母からの荷物に何か入っていた、という内容の句はわりとよくあると思うが、この句は柿二つが効いている。「いかにもありそう。一つでも三つでもない柿二つ。母の思い」と三代さんが評したように、母親は荷物の空いたスペースに何でも入れる。柿のほかにも林檎や梨などの果物、薩摩芋や南瓜などの野菜、餅に缶詰などなど。ありがたいやら、面倒臭いやら。母にしてみれば、いつまでたっても子供は子供なのだ。
 最近のことではなく、昔の想い出かもしれない。親元を離れ、独り暮らしを始めた学生時代か。社会人になって、ようやく勤務先の環境に少し慣れ始めたころか。帰宅すると、アパートの部屋の前に荷物があった。「これから寒くなるから、膝掛け編んだよ」。母の手紙とともに毛糸の編み物が送られてきた。隅っこに柿が二つ。似たようなシーンは、地方出身者なら一度は経験があるだろう。
 作者の実家は、今度の台風の被害を受けた。幸い両親は近くの親戚の家に避難して無事だったが、電車も道路も不通となり、被害の様子を見に行きたくても近づけない状況がしばらく続いた。庭の柿はすべて落下したという。
(双 19.10.26.)

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