啓蟄や人の湧き出る地下出口 前島 幻水
啓蟄や人の湧き出る地下出口 前島 幻水
『季のことば』
虫が地中から這い出す啓蟄の候。今年は季節外れの陽気があったり、冬に逆戻りしたかのような寒気に見舞われたりした。しかし暦は季節どおりに移り、人々の活動も日ごと盛んになっている。
啓蟄と桜の季節はちょっと離れるが、いま桜を目当てにインバウンド客のラッシュを迎えている。東京駅や築地場外市場など都内各所には外国人の姿があふれる。老いも若きもカップルがいれば、小旗を先頭にツアーの一団も闊歩する。中国経済の減速により、一時見られた高級店への貸切バス横付けは少なくなった気もする。
日本の交通システムの利便さに気づき、網の目の地下鉄路線を乗りこなす外国人が明らかに増えてきた。文化慣習の異なる人々だから、滞日時の行動には多少の軋轢を生じる。それを割り引いて景気低迷のこの国にとっては得難い外貨収入だ。
この句の「人の湧き出る」は、なにも日本のラッシュアワーを言っているのではないと解釈する。ここは外国人観光客がぞろぞろ地下鉄の出口から出てくる情景を詠んだのだと取りたい。「湧き出る」の表現がうまい。あたかも泉から滾々と水が湧き出るようだという。じつは「啓蟄」の兼題に地下出口をもってきた発想は筆者も同じだった。「啓蟄の地下鉄出でし異人ツアー」がそれだが、1点句に沈んだ。高点の掲句との優劣は歴然か。
(葉 25.04.11.)