ディールとはまず脅すこと春疾風 中野 枕流

ディールとはまず脅すこと春疾風 中野 枕流 『この一句』  米国もトランプも出てこないが、誰が読んでもトランプ大統領の他国を威す理不尽な交渉術を詠んだ句と分かる。季語の春疾風は春に吹く強い風を指し、その春の最初に吹く南風は春一番と呼ばれる。急速に発達すると台風並みの「春嵐」となり、過去には大きな海難事故を招いたこともある。トランプ流のディールに翻弄され、右往左往する世界が彷彿とする時事句である。世界の盟主国とは思えぬやり口に腹を立てている人は多く、3月の日経俳句会で高点を得た。  トランプ大統領は就任早々にパナマ運河の返還とグリーンランド領有をぶち上げ、世界を唖然とさせた。さらに麻薬流入を理由としたカナダ、メキシコへの報復関税、同盟国を含む鉄鋼・アルミへの25%の重加関税などを相次ぎ打ち出し、各国に譲歩を迫っている。  狙いはMAGA(アメリカを再び偉大に)にするため、自国の産業を保護し、他国の競争力を弱めることにあるとされる。ディールはウクライナ和平にもおよび、支援の見返りに鉱物資源の半分を要求した強欲さには、開いた口が塞がらなかった。  日経俳句会は新聞記者出身の会員が多く、鋭い時事句が句会をにぎわせる。トランプ政権もよく句材となり「切り札をめくればトランプ冬初め 三薬」、「AIの掴むトランプ流れ星 鷹洋」などが思いうかぶ。最近は「同盟国MAGAのゆすりのカモにされ 卓也」もあった。時事句は1年経つと忘れ去られると言われるが、掲句はトランプ政権が続く限り命脈を保ちそうだ。 …

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