春寒し経年劣化大八洲    大澤 水牛

春寒し経年劣化大八洲    大澤 水牛 『この一句』  今年一月末。埼玉県八潮市で突然、道路が陥没して、その穴にトラックが突っ込んでしまうとい う大事故が発生した。もう一か月以上にもなるというのに、未だにトラックに乗っていた人は見つ からず、復旧工事も遅々として進んでいない。連日、県知事が事情説明に躍起となっている。  実は九年前にも道路の陥没事故が起きている。福岡市のJR博多駅前で同じように道路が陥没し、 連日、テレビで陥没し続ける映像が流れた。その時も日本全国にショックが広がった。何が起きた のか分かった後に、事態の深刻さと対策のむつかしさに世論が沸いた。今回の大規模陥落は、博多 駅前の惨事以後、この国が本格的に対策に取り組んでこなかったことを図らずも証明した。  この句は5,60年前の昭和の高度成長期に日本全国でなされた下水道工事の寿命が尽きつつあ ることを嘆く時事句だ。  「経年劣化」という、俳句にはまったくそぐわない字句を中七に持って来て、さらに下五には、これまたほとんど死語になっている単語を持って来て締めている。それもあって句会ではこの俳句には票が入らず「大八洲なんて知らない」などと、一蹴されてしまった。  昭和100年。戦後80年。停滞30年。超高齢化・少子化が進み、この国の先行きへの懸念が尽きない。この句も時事句の宿命というか、「令和7年」といった詞書なしには埋もれてしまうに違いない。でも噛み締めたい句だ。 (青 25.03.03.)

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