酒断ちて丸一年よ初不動     堤 てる夫

酒断ちて丸一年よ初不動     堤 てる夫 『この一句』  作者はある日禁酒を思い立ったのだろう。持病を抱える句会の長老だから、健康を気にした固い決意のもとか、あるいはちょっとした思い付きだったのかも。とにかく禁酒の毎日が始まった。  元来酒豪で、連れ添う人もまた酒を愛する人だ。句友らとの付き合い酒も多いから、いつまで続くのか自身半信半疑だったのかもしれない。それが、気が付いたら丸々一年経っていた。自分の意志堅固に驚いたのかどうか。その間の心情が「丸一年よ」の「よ」に表れている。同じく感嘆を表現する場合の「や」ではなく「よ」となったのだろう。  そもそも禁酒と禁煙はどちらが難しいのか、議論のあるところだ。禁煙の方がより困難というのがどうも優勢のようだが、「禁煙はいつでもできる。実行しては喫煙再開を繰り返せるから」というインチキ話もある。本来は「断酒、断煙」と言うべきだろう。患者に禁酒を宣告するのは医者の常。しかし宣告を固く守れる人は少ない。よほどの重病でないかぎり、適当な言訳をしては飲んでしまう。深酒だけ避ければ健康に良いし、二日酔いもなく酒席での失敗もない。缶ビール一個、ぐい呑み一杯くらいはいいだろうと自己弁護してしまえば真の禁酒とは言えない。  きっぱりと一滴も飲まない断酒を貫いた作者には賛辞を送るべきだ。「初不動」の不動明王は「揺るぎない守護者」の意味があるとか。これは新年にあたり改めて断酒を誓った句だと思える。 (葉 25.02.11.)

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