風眩し過ぎし五年や船の旅 池村 実千代
風眩し過ぎし五年や船の旅 池村 実千代
『この一句』
2020年2月3日、横浜港に入港した大型クルーズ船で、新型コロナウイルスの集団感染が発生。乗客・乗員3711人が船内に隔離され、712人が感染、13人が死亡した。
ちょうど5年後の2月3日。当時の乗客の有志が横浜港で祈りを捧げるとのニュースを聞いた作者は、居ても立ってもいられなくなり近くの教会へ駆けつけ、朝のミサでお祈りをしたという。当時作者は、夫と共にその船に乗っていて、「永き日や数独をとく船の上」の一句を船上から投句。月例で一席に輝くと共に、その年の日経俳句会賞という年間優秀賞を受賞した(2020年2月21日付け、当ブログ参照)。
その後、新型コロナ感染症は、2類から5類に変更され、今や季節性インフルエンザと同等の位置付けだ。節目ということもあり、NHKの番組で「クルーズ集団感染」が取り上げられたり、クルーズ船で対応に当たった災害派遣医療チームDMATを描く『フロントライン』という映画が今年6月に封切られるなど、回顧企画が目につく。
当時の作者は、船を降りた後も様々な辛いことがあったという。それ故、クルーズ船の事を思い出す度に複雑な気持になる。とはいえ、この経験をプラスに変えたいという思いもある。兼題の「風光る」は状態をいうが、あえて「風眩し」と主体的に詠んだのも前を向こうという意思の表れか。作者にとっては重い「五年」だ。
(双 25.02.27.)